【EcoTopics】農林水産業分野における脱炭素手法

目次

5月21日付けで第六次環境基本計画が閣議決定されました。本計画のポイントの一つとして、気候変動・生物多様性の損失・汚染という地球の3つの危機に対し、早急に経済社会システムの変革を図り、環境収容力を守り環境の質を上げることによって、経済社会が成長・発展できる「循環共生型社会」の実現について打ち出されています。また、2021年6月に策定された地域脱炭素ロードマップにおいても、地域経済の成長における脱炭素の重要性について掲げられており、地域産業の成長戦略において今や脱炭素は重要な要因となっています。

本トピックでは、多くの地域で基幹産業となっている農林水産業分野における脱炭素手法についてご紹介します。

 

農業分野に関連する主な脱炭素手法


●スマート農業

スマート農業は「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業」のことです。スマート農業により以下のような環境負荷軽減が図られます。

・高精度の位置情報を活用し、トラクター等の農機の自動走行により、作業ムラやムダを減らすことで省エネ、農薬・肥料散布量の低減に貢献

・自動飛行によりほ場全体を撮影し、AIを用いた画像解析により、害虫の位置を特定し、自動飛行のドローンによるピンポイントでの農薬散布により、生産に化石燃料が使われる化学肥料を大幅に低減 など

 

●農業用機器のバイオディーゼル燃料の活用

バイオディーゼル燃料(BDF)は、植物油やその廃食油などを原料として製造されたディーゼルエンジン用燃料で、軽油など化石燃料の代替燃料としての利用拡大が期待されています。一般的なディーゼルエンジンにも使用可能で燃費や走行性能も軽油とほぼ同等で、軽油よりも引火点が高く比較的安全な燃料といえます。

 

●ソーラーシェアリング

ソーラーシェアリングは農地に支柱等を立てて、その上部に設置した太陽光パネルを使って日射量を調節し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取組です。作物の販売収入に加え、売電による継続的な収入や発電電力の自家利用等による農業経営の更なる改善が見込まれます。

 

●農業残渣バイオマスの活用

農業残渣をバイオマス発電の燃料として活用することで、農業残渣物における廃棄費用を抑えることができます。また、太陽光発電や風力発電と違い、天候に左右されず比較的安定した発電量を見込むことができます。地域で発生する農業残渣を活用することでエネルギー自給率の向上に寄与します。

 

●バイオ炭の農地投入

バイオ炭は木炭や竹炭といった生物資源を材料とした炭化物のことです。バイオ炭にはCO2の吸収効果を持つため、脱炭素化に寄与するだけでなく、土壌の保水性や透水性の向上、中和作用、水質の浄化といった土壌改良効果があり、作物の収穫量増加に寄与することができます。

 

 

林業分野に関連する主な脱炭素手法


●木質バイオマスの活用

農業残渣バイオマス同様、太陽光発電や風力発電と違い、天候に左右されず比較的安定した発電量・発熱量を見込むことができます。

発電の場合は、製材用等用材の需要確保、素材生産作業のシステム化と木材流通の低コスト化とともに、長期的な森づくりビジョンの共有により、関係事業者が連携し強固な体制で取り組む必要がありますが、熱利用であれば規模や燃料の種類にも幅があり、また投資コストも発電ほど大きくないため、地域の実情にあわせて導入することが可能です。

製材工場の残材や住宅解体材などを活用した発電においては、廃棄物の発生を抑えるとともに廃棄費用を抑えることができます。

森林由来の間伐材など地域の未利用資源をエネルギーとして利用する場合は、資源の収集や運搬、バイオマスエネルギー供給施設や利用施設の管理・運営など、新しい産業と雇用が創られ、山村地域の活性化にも貢献します。

 

●森林整備による吸収量確保

樹木が光合成を行い成長する過程で、大気中のCO2と地中の水をもとに、酸素と炭素を作り出しています。この際に、発生した酸素は外に放出され、炭素は樹木の中に貯留します。これにより森林がCO2を吸収します。植林だけでなく、適切な伐採・間伐により日光が行き届き樹木の成長を促進することでCO2の吸収量も増加します。

 

 

漁業分野に関連する主な脱炭素手法


●冷凍・冷蔵設備の省エネ・ノンフロン化

温室効果の高い代替フロン(HFCs)は主に冷凍冷蔵機器の冷媒として利用されています。また、冷凍冷蔵機器は稼働時の消費電力が大きく、漁業分野においては収穫した海産物を保管・管理するにあたり使用する冷凍・冷蔵設備を省エネ・ノンフロン化することで代替フロンの排出削減及びエネルギー起源のCO2の削減に寄与することができます。

 

●船舶の水素燃料船化

化石燃料を用いる従来の漁船から、水素燃料電池を用いる電動船(水素燃料船)への転換により脱炭素化を図ることができます。しかし、現段階では小型船舶に関しては実用化がされていますが、遠距離航海用の大型船舶に対しては、出力面等において水素燃料電池化はまだ不十分な状況であり、今後の技術革新が必要となってきます。

 

●ブルーカーボンの創出

ブルーカーボンは沿岸・海洋生態系に取り込まれ、そのバイオマスやその下の土壌に蓄積される炭素のことであり、主要な吸収源としては、藻場(海草・海藻)や干潟等の塩性湿地、マングローブ林があげられます。CO2の吸収効果を企業の温暖化対策として活用するブルーカーボン・オフセット制度も構築され、海洋資源・環境に関する事業に取り組む企業を中心に活用されています。

 

 

各府省庁の支援制度


国でも各府省庁において下記財政支援等の支援ツール・枠組みを設けており、それらを効果的に活用することで農林水産業分野のさらなる脱炭素化が図られることが考えられます。

 

●地域脱炭素の取組に対する関係府省庁の主な支援ツール・枠組み

https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/supports/

 


株式会社ナレッジリーンでは、本トピックスに関するものだけでなく、環境政策全般のご相談に応じますのでお気軽にお問合せ下さい。

リンク:ホーム>環境・カーボンニュートラル>再エネ設備導入調査計画、補助金活用支援

 

(令和6年6月 公共コンサルティング部 中平)



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