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【EcoTopics】行政における『できることから始める「気候変動×防災」実践マニュアル』の活用法

目次

 近年、これまででは考えられない異常気象により、日本各地で気象災害が頻発しており、甚大な被害がもたらされています。異常気象の原因には、気温上昇や海水温の上昇といった「気候変動」があると考えられ、もはや「気候危機」とも言える状況だとする声もあります。こうした状況の災害に対応するためには、気候変動リスクを踏まえた抜本的な防災・減災対策が求められます。また、気象災害やその被害状況を報道等で目の当たりにした住民の興味・関心は高まっており、防災・減災対策についての基本的な考え方や取組の検討を、行政が求められる場面も増えてきています。

こうした背景のもと、令和2年6月30日には内閣府及び環境省から『気候危機時代の「気候変動×防災」戦略(共同メッセージ)』が公表されました。さらに、令和3年度からは、自治体において、気候変動リスクを踏まえた防災対策の検討や関連計画を見直す際に活用できるマニュアル作成に取り組んでおり、この度、『できることから始める「気候変動×防災」実践マニュアル-地域における気候変動リスクを踏まえた防災・減災対策のために-』(以下「実践マニュアル」)が公表されました。

 本トピックスでは、「気候変動×防災」に関する施策を検討する自治体の助けとなる「実践マニュアル」について、ご紹介します。


そもそも「気候変動×防災」とは何か?

「気候変動×防災」とは、想定を超える気象災害が各地で頻繁に生じる「気候危機」時代に対応するため、気候変動対策と防災・減災対策とを効果的に連携して取り組んでいくもので、内閣府及び環境省の共同メッセージにて初めて提示されたものです。さらに理解を深めるため、「気候変動×防災」へ取り組むために必要となる3つの要素を、図のように整理します。





 

出典:『できることから始める「気候変動×防災」実践マニュアル-地域における気候変動リスクを踏まえた防災・減災対策のために-』P7より

 

要素①は、気候変動影響を把握し、適応と緩和を考慮した対策を行う「気候変動対策」です。

要素②は、災害による被害を最小限にするための「事前の災害対策」です。

要素③は、災害による被害から回復し、元の盛んな状態に戻るための「復興」です。

 

この3つの重なりのうち、「気候変動×防災」は、図中の青太線に当たります。また、青太線のうち赤点線のところは特に「適応復興」に当たります。「適応復興」とは、災害からの復興において、単に“地域を元の姿に戻す”という原形復旧に捉われず、弾力的な対応により気候変動への適応を推進するための考え方です。 

図からもわかるとおり、復興(要素③)と、気候変動対策(要素①)あるいは事前の災害対策(要素②)のいずれか、あるいは両方を兼ね備えた取組であることがわかります。

また、「気候変動×防災」における「適応復興」の中でも、発災する前に、気候変動による将来の災害への影響を把握し、復興計画や関連施策を検討する際に役立てる「事前の適応復興」に取り組むことが、重要になります。これにより、気候変動下において、災害の被害を最小限にするとともに、被害からより強靱で魅力的な回復をして、暮らしやすいまちづくりを行うことが可能になります。

このように、「気候変動×防災」に取り組むことは、取り組まなかった場合の「なりゆき社会」とは異なり、今よりもさらに激甚化・頻発化した将来の気象災害にも負けず、復興・復旧を迅速に実現できる地域が構築できるとともに、気候変動影響を抑制する取組(緩和策)を行うことで、将来の気象災害の影響を軽減し、環境や人の暮らしに配慮した安心・安全な社会の構築につながることが期待されています。

実践マニュアル的「気候変動×防災」の進め方

では、自治体が「気候変動×防災」に取り組むためには、どのように進めていけばよいのでしょうか。実践マニュアルにある進め方を、簡単に整理してみました。

※なお、この実践マニュアルは、気候変動によって激甚化、頻発化が懸念されている暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、土砂災害、高潮、熱波、渇水によって生じる被害(及びこれらの被害によって発生する可能性がある二次被害を含む)を対象とし、地震、津波、火山噴火は対象外となりますので注意が必要です。

Step1 現在までの情報を整理する

ここでいう「現在までの情報」には、①気象災害における地域特性②これまでに発生した気象災害③現在の取組状況、の3つが含まれます。

気象災害による影響の種類や受けやすさは、地理的条件、社会経済的条件によって異なるため、そういった地域特性は前提条件として必要な情報です(①)。また、地域特性に併せて、これまで実際に発生した気象災害を把握することも重要です。庁内に残る過去の記録に加えて、国などが公表している情報※も活用すると、多くの情報を収集することが可能になります(②)。加えて、現在すでに取り組んでいる施策について、先ほど示した図にある3つ要素を念頭に抽出していきます。この抽出作業にあたっては、関連計画の所管部局と協力したり、視点を変えて捉えなおしたりすることで、「気候変動×防災」に資する取組状況を把握しましょう(③)

※内閣府「防災情報のページ」

 気象庁「災害をもたらした気象事例」

Step2 備えるべき気象災害を考える

気象災害に備えるためには、①今後どのような気象災害が想定され、どのように影響するのかを網羅的に把握する必要があります。この実践マニュアルでは、気象災害により想定される「影響」の整理方法として、気候変動によって気象災害がどのように変化し、またその影響がどのように波及するかを示したプロセス図を活用する方法が紹介されています。これにより、各自治体にどのような影響が生じ得るのか、因果関係を把握することができます。

次に、②優先的に対応する気候変動影響について検討します。この実践マニュアルでは、将来起こり得る気象災害のシナリオを描くことで、地域にとって影響の大きい事象(=優先的に対応する気象災害)を特定する方法が紹介されています。(図参照)












出典:『できることから始める「気候変動×防災」実践マニュアル-地域における気候変動リスクを踏まえた防災・減災対策のために-』P40より

Step3 将来の気象災害への対策を考える

Step2で検討した優先的に対応する気候変動影響を対象に、Step1で整理した既存施策の情報を照らし合わせ、既存施策の対応力の有無を整理します。対応力の有無について、新規または追加的な施策が必要と判断されるものについては、具体的な適応策の情報を収集し、今後の対応について検討していく必要があります。この実践マニュアルには、一般的に想定される適応策のリストなどが掲載されています。

Step4 体制を構築する

Step3で検討した施策を実行していく上で、これに関わる全ての職員の連携はもちろんのこと、庁外の関係者との協働が重要になってきます。この実践マニュアルには、「部局間」「国や他の地方公共団体」「地域の関係者」「研究機関」の4つのパターンに分けて、事例を紹介しています。

実践マニュアルの活用方法

ここまで紹介してきた実践マニュアルには、各プロセスに「進め方のコツ」や岐阜県、江戸川区をはじめとした実際の「取組事例」が散りばめられています。また、情報源となる国などの公表資料や提示された手法の詳細についても資料編を含めて、多く掲載されているので、各自治体の実情に合った方法の検討にご活用ください。

 

株式会社ナレッジリーンでは、自治体の環境関連計画の策定支援を行っております。

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(令和6年4月 公共コンサルティング部 中谷)



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