【EcoTopics】「建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度」の施行に伴う自治体の促進計画策定
令和4年6月交付の「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(改正建築物省エネ法)が、令和6年4月に施行予定となっています。
法第67条の「建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度」において、太陽光パネル等の再エネ設備の設置の促進を図ることが必要である区域について、市区町村が促進計画を作成することができるようになり、促進計画で再エネ設備を設ける場合の建築基準法の特例適用要件を定めることで、建築物に対する特例許可を受けられるようになります。
また、再生可能エネルギーを導入する効果について建築士による説明義務が発生します。
市区町村の促進計画の策定は努力義務となっていますが、促進計画を策定しない限り、本制度の活用はできないこととなります。2050年のゼロカーボンシティの実現のためには、太陽光発電設備など建物への再エネ導入は不可欠であり、促進計画を策定することにより、域内の再エネ設備の設置促進へとつながっていくことが期待されています。
本トピックスでは、自治体の促進計画策定に伴う期待効果や策定方法についてご紹介します。
促進計画の期待効果
促進計画を策定することで適用される措置に伴い、以下の効果が期待されます。
建築士からの普及啓発・行動変容促進
建築士は、促進区域内で市区町村の条例で定める用途・規模の建築物について設計の委託を受けた場合、 設置することができる再エネ利用設備に係る一定の事項について、建築主に対し、書面での説明義務が課せられます。(※建築主から説明を要しない旨の意思の表明があった場合を除きます。)
説明する事項は、
①温室効果ガス削減の必要性など、再エネ設備導入の意義 ②建築物に設置することができる再エネ設備の種類・規模 ③設備導入による創エネ量や光熱費削減の効果 等 |
であり、建物建築の担い手自らが再エネに関する情報の発信者となることで、より多くの住民・事業者に啓発を図ることが可能となります。
国土交通省のHPに掲載されている『説明義務用リーフレットひな形』には、コストメリットのほか、維持管理や処分・リサイクルなどについても紹介されており、これらのツールをうまく活用していくことが想定されます。
しかしながら、建築士は地球温暖化対策や再エネ設備についての専門家ではないことから、説明を行うにあたっては、市区町村等から建築士に向けての一定の支援が必要です。
★参考:【建築物省エネ法第67条の2~第67条の6】建築物再生可能エネルギー利用促進区域および関連情報(国土交通省)
(別紙1)説明義務用リーフレットひな形
建築基準法の特例許可
促進区域内では、促進計画に定める特例適用要件に適合する建築物について、特例許可を受けることで、太陽光パネルなど再エネ利用設備の設置に伴うものであれば、建築基準法の高さ制限、容積率制限、建蔽率制限を超えることが可能になります。
これらの形態規制の制約により再エネ利用設備の設置を断念・あるいは設置規模を縮小していた建築物について、再エネ利用設備を設置しやすくなります。
出典:【建築物省エネ法第67条の2~第67条の6】建築物再生可能エネルギー利用促進区域および関連情報(国土交通省)
促進計画の策定方法
促進計画の策定方法については、国土交通省により「促進計画の作成ガイドライン」が作成されているほか、各種雛形などが紹介されています。
★参考:【建築物省エネ法第67条の2~第67条の6】建築物再生可能エネルギー利用促進区域および関連情報(国土交通省)
改正建築物省エネ法上、促進計画の作成等は、市区町村が行うこととされていますが、以下の方法でも作成が可能です。
ケース1 都道府県への事務の委託
促進計画の作成に係る事務を市町村から都道府県に委託することができます。
また、促進区域における建築士の説明義務の対象となる建築物の用途・規模は、市町村の条例で定めることとされていますが、地方自治法に基づき、別に規約で定めをするものを除くほか、当該事務に関する受託団体(都道府県)の条例が、委託団体(市町村)の条例としての効力を有することとなります。
複数の市町村が制度の活用の意向があるものの、体制面などで促進計画の作成に係る事務の実施が難しく、都道府県が支援する意向があるとき等が想定されています。
国土交通省のガイドラインには、都道府県への事務の委託に必要な規約のひな形も紹介されています。
★参考:建築物省エネ法に基づく「建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度」における促進計画の作成ガイドライン(第1版)25ページ【Column2促進計画の作成主体について(地方公共団体間の連携・協力等)】
ケース2 都道府県の方針・促進計画のひな形提供など
市区町村に対し、都道府県の再生可能エネルギーの導入目標・方針等の情報提供を行ったり、これらの情報を予め反映した促進計画のひな形などを提供することが想定されています。
既に東京都では、「東京都建築物再生可能エネルギー利用促進計画策定指針」が令和5年12月に公表されており、促進計画の作成にあたり、都の方針に基づく定めるべき項目や再エネ利用設備の促進策、策定方法、促進計画のひな形などが紹介されています。
★参考:建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度(東京都都市整備局)
その他配慮すべきこと
●建築士の説明義務制度については、説明義務の対象となる建築物の用途・規模を市区町村の条例で定める必要があります。
●促進計画を作成するにあたっては、促進区域内の住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずることが義務付けられていることから、パブリックコメントなど意見集約の機会を設けることが必要です。
パリ協定の1.5℃目標の実現のための勝負の期間の2030年まで、残すところあと6年となりました。
住民・事業者の自主的な取組が中心となる地球温暖化対策において、説明義務や特例許可など制度としての枠組みである「建築物再生可能エネルギー利用促進区域制度」の活用は、再エネの普及、設置促進に有効に働いていくことが予想されます。
法の施行に伴い、自治体の皆さまにおきましては、まずは促進計画の策定の検討を行うことが期待されます。
株式会社ナレッジリーンでは、自治体の環境関連計画の策定支援を行っております。
本トピックスに関するものだけでなく、環境政策全般のご相談に応じますのでお気軽にお問合せ下さい。
(令和6年3月 公共コンサルティング部 緒方)
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