【EcoTopics】次期環境基本計画の方向性「マイナスの解消からプラスの領域を目指す取組へ」
平成30年4月17日に閣議決定された「第五次環境基本計画」の見直しの検討が始まっており、令和4年度のうちに第六次環境基本計画に向けた基本的事項に関する検討会において「基本的事項」が、第六次環境基本計画に向けた将来にわたって質の高い生活をもたらす「新たな成長」に関する検討会において「新たな成長」が取りまとめられました。
令和5年5月29日には、中央環境審議会への諮問を受け、「第六次環境基本計画」検討のための総合政策部会が開催され、令和5年8月頃には中間のまとめ、令和6年4月頃には中央環境審議会から答申、閣議決定へと進む予定です。
本トピックスでは、これらの「基本的事項」と「新たな成長」、「第六次環境基本計画」検討のための総合政策部会の資料に基づき、「第六次環境基本計画」の方向性についてご紹介します。
悪化し続ける地球環境(30年を振り返る)
「第六次環境基本計画」は、第一次計画からちょうど30年の節目に当たることから、方向性の検討に当たっては、これまでの30年の振り返りが行われています。
平成4(1992)年の地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)で採択されたリオ宣言、アジェンダ21により、国際的に環境対策が進められてきたものの、先進国と途上国との認識の乖離もあり、地球環境は今なお悪化し続けています。
地球環境の状態をはかる指標として、「エコロジカル・フットプリント※1」、「プラネタリー・バウンダリー」が紹介されています。
エコロジカル・フットプリント
1970年代以降、人間の資源に対する需要は、1年間に地球が供給できる量を超過する「オーバーシュート」の状態が続いています。2010年代後半の世界全体のエコロジカル・フットプリントは地球1.7個分に相当しているとされています。
図 世界のエコロジカル・フットプリントとバイオキャパシティ※2の推移
出典:中央環境審議会総合政策部会(第107回)配布資料 「資料3第五次環境基本計画の見直しに向けた論点整理」
※1 エコロジカル・フットプリント
私たちが消費するすべての再生可能な資源を生産し、人間活動から発生する二酸化炭素を吸収するのに必要な
生態系サービスの総量のこと。[人口×1人あたりの消費×生産・廃棄効率]で計算される。
※2 バイオキャパシティ(生物生産力)
生態系サービスの供給量のこと。[=面積×生物生産効率]で計算される。
出典:WWFジャパン「日本のエコロジカル・フットプリント2015」
プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)
地球の限界は、人間が地球システムの機能に9種類の変化を引き起こしているという考え方に基づく、人間の活動が地球システムに及ぼす影響を客観的に評価する方法の一つです。人間が安全に活動できる範囲内にとどまれば、人間社会は発展し、繁栄できますが、境界を越えることがあれば、人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされます。
2022年に発表された最新のプラネタリー・バウンダリーの結果によれば、新たに境界を超えた領域が確認されています。
図 プラネタリー・バウンダリーの最新状況(2022年発表)
注)大気エアロゾルの負荷、生物系機能の消失は未解析。
出典:中央環境審議会総合政策部会(第107回)配布資料 「資料3第五次環境基本計画の見直しに向けた論点整理」
社会・経済面から顕在化する課題(失われた30年)
「第六次環境基本計画」の検討にあたっては、社会・経済面からの課題分析も行われています。
社会面
日本の総人口は2070年には約 8,700 万人にまで減少する見込みであり、人口分布では、東京への一極集中が進む一方、地方部では人口減少・高齢化が進行し、過疎地域に該当する市町村数は全国の約5割、国土の約6割を占めている状況です。このような過疎地域の集落では、耕作放棄地の増大、森林の荒廃、獣害・病虫害の発生など、森林生態系や農地生態系などに係る問題が顕在化しています。
経済面
1990年代以降の「失われた30年」と呼ばれる長期停滞の状態にあるとされ、この30年間で一人当たりGDPや一人当たり賃金の伸びは他の主要国とは対照的に低迷しています。炭素生産性※3は1995年には世界でも上位の水準でしたが、世界各国が成長するなか低迷しています。一方、資源生産性※4については、高い水準が保たれています。
図 資源生産性の推移(名目GDPベース)
出典:中央環境審議会総合政策部会(第107回)配布資料 「資料3第五次環境基本計画の見直しに向けた論点整理」
※3 炭素生産性(=GDP/温室効果ガス排出量)
温室効果ガス排出量当たりの国内総生産のこと。
※4 資源生産性(=GDP/天然資源等投入量)
産業や人々の生活がいかに物を有効に使っているか(より少ない資源でどれだけ大きな豊かさを生み出しているか)
を総合的に表す指標。天然資源等投入量は国産・輸入天然資源及び輸入製品の合計量のことで、一定量当たりの
天然資源等投入量から生じる国内総生産(GDP)を算出しています。
目指すべき姿①「統合的向上」
環境基本法における「環境保全」には、「環境保全上の支障の防止」に加え、プラスの領域(良好な環境)を目指す取組が元々含まれていると考えられていますが、あまり明確に示されてきませんでした。時代の変遷とともに、これまでのマイナスの解消に留まらない、プラスの領域を目指す取組が必要とされています。
環境・社会・経済の統合的向上のイメージとして、SDGsのウェディングケーキモデルが紹介されています。
環境は人類存続の基盤であり、社会も経済もその上で成り立っています。環境負荷の増大により自然資本が臨界的水準を下回ることがあれば、人類の生存そのものが脅かされる事態となります。
図 SDGsのウェディングケーキモデル
SDGsの17の目標を3層に分類して総合的に整理したもので、「経済」は「社会」に、「社会」は「(自然)環境」に支えられて成り立つという考え方を示しています。
出典:中央環境審議会総合政策部会(第107回)配布資料 「資料3第五次環境基本計画の見直しに向けた論点整理」
目指すべき姿②「自然資本(環境)とWell-being」
環境政策の目指すところは、環境基本法第1条の文脈を踏まえると「環境保全上の支障の防止」及び「良好な環境の創出」からなる環境保全と、それを通じた現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、Well-being※5、経済厚生の向上であり、また、人類の福祉への貢献でもあると考えられます。
現在、多くの食料・資源・エネルギーを海外に依存する日本にとって、環境問題の解決は、食料・資源・エネルギーの安定供給を確保することとなり、国民一人一人の生活の質やWell-beingの向上、国民の存続基盤の維持につながります。環境負荷を低減し、ストックとしての自然資本を充実させることでWell-being の向上につなげていくことが考えられています。
図 人類と地球のWell-beingの関係イメージ
出典:中央環境審議会総合政策部会(第107回)配布資料 「資料3第五次環境基本計画の見直しに向けた論点整理」
※5 Well-being
幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態のこと。
今後環境政策が果たすべき役割「統合的アプローチ」
環境問題の解決、持続可能性に関する様々な課題を統合的に捉えるためには、炭素等の元素を含む自然界の健全な物質循環を確保すること=『循環』と生態系の健全な一員となること=『共生』を個別の環境政策の共通の目的としつつ、統合的に運用し、環境負荷の総量を減らしていくことが求められます。
例えば、脱炭素社会への移行は、循環経済への移行や自然再興の取組と相互に関係しており、それぞれの取組間の関係性(ネクサス)を踏まえ、トレードオフを回避しつつ、相乗効果が出るよう統合的に推進することにより、持続可能性を巡る社会課題の解決と経済成長の同時実現を図ることが重要となります。環境間の課題だけでなく、環境政策による経済・社会的課題の同時解決を含む、環境政策と他の政策分野との統合も重要です。
図 カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブの統合的アプローチ
出典:中央環境審議会総合政策部会(第107回)配布資料 「資料3第五次環境基本計画の見直しに向けた論点整理」
「第六次環境基本計画」では、環境・経済・社会の統合的向上の考え方を強化しつつ、より「自然資本」に着目し、人類の存続の基盤として、環境負荷の低減からプラスに転じていく(ネットポジティブ)の考え方が盛り込まれていくこととなります。
並行して、「第五次循環型社会形成推進基本計画」の検討も始まり、令和6年6月には閣議決定される見込みです。
これにより、「地球温暖化対策計画」(令和3年10月)、「第6次生物多様性国家戦略」(令和5年3月)と併せて、「カーボンニュートラル(炭素中立)」、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」、「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の3つの目標を踏まえた、2030年、2050年を見据えた計画が整備されることとなります。
(令和5年6月 公共コンサルティング部 緒方)
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