【EcoTopics】新たな生物多様性の世界目標『ネイチャー・ポジティブ』と国家戦略
令和5年1月30日(月)より「次期生物多様性国家戦略(案)」に関する意見募集(パブリックコメント)が始まりました。令和4年12月の「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択を受け、2030年、2050年を目標とした新たな生物多様性の保全・回復のための戦略が掲げられています。
本トピックスでは、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」と「次期生物多様性国家戦略(案)」についてご紹介します。
新たな生物多様性の世界目標
令和4年12月にカナダ・モントリオールで開催された「生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)第2部」において、愛知目標の後継となる新たな生物多様性の世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。
枠組のなかには、2050年ビジョン『自然と共生する世界』とビジョン達成のための4つの2050年ゴール、その達成のための2030年ミッション『自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる』と、2030年ミッション達成のための23の2030年ターゲット(世界目標)が盛り込まれています。2030年ミッションは、『ネイチャー・ポジティブ』の考え方であり、実質的に国際目標として掲げられたといえます。
ネイチャー・ポジティブ
2030年ターゲットには、2030年までに陸と海の30%以上を保護地域とOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)で保全・管理する「30by30目標」や、劣化した生態系の30%の回復、外来種の導入率・定着率の50%以上削減、農薬・化学物質によるリスクの半減など具体的な数値目標のほか、自然を活用した解決策(NbS)、ビジネスにおける影響評価・情報公開の促進などがあげられています。
昆明・モントリオール生物多様性枠組の2050年ビジョンとゴール、2030年ミッションとターゲット
出典:環境省「自然環境部会 生物多様性国家戦略小委員会(第6回)」資料1-1 生物多様性条約COP15の概要
次期生物多様性国家戦略(案)
「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえ、日本の次期生物多様性国家戦略案が検討されています。令和5年1月30日付のパブリックコメントで示された案では、長期目標としての2050年ビジョン「『2050年までに、生物多様性が評価され、保全され、回復され、賢明に利用され、生態系サービスが維持され、健全な地球が維持され、すべての人々にとって不可欠な利益がもたらされる』自然と共生する社会」の実現と、短期目標としての2030年ミッション「2030年までに『ネイチャーポジティブ:自然再興』を実現する」が掲げられ、5つの基本戦略と「30by30目標」を含めた15の状態目標、25の行動目標が示されました。
市町村の役割として、日々の生活や、地域住民に身近な生物多様性に関する活動、学校教育・社会教育を通じた人材の育成等において重要な役割を果たすことが期待されており、「30by30目標」の達成に向けては、市町村あるいは都道府県レベルでの目標を設定し、都道府県立自然公園や条例に基づく保護地域はもちろん、より地域に根ざした地域住民に大切にされている里山やビオトープ、境内地、都市緑地等を、地域住民や地域の企業等と一体となって保全することが期待されています。このほか、地域と共生した再生可能エネルギーの導入や、防災・減災や人の健康、地域の活性化など地域課題の解決に向けて自然を積極的に活用すること、生物多様性と経済の統合として、生物多様性に配慮した持続可能な農林水産業を促進し、自然を活用した地域経済の活性化を後押しすることなどが期待されています。
企業の役割としては、サプライチェーンのそれぞれの過程で生物多様性への負荷を低減させ、繋がりを認識し、透明性のある適切な情報開示などが求められているほか、地域住民と一体となった生物多様性保全の取組の実施や資金の提供、多様な動植物の生息地・生育地となっている工場敷地内の緑地や社有林等のOECM等としての管理などが期待されています。
次期生物多様性国家戦略は、パブリックコメントののち、今年度内に閣議決定される見込みです。
次期生物多様性国家戦略(案)の概要
出典:環境省「次期生物多様性国家戦略(案)」に関する意見募集(パブリックコメント)について」参考1 次期生物多様性国家戦略(案)の概要
新型コロナウイルス感染症の影響により、当初の予定より2年遅れてようやく新たな生物多様性枠組が採択され、「ネイチャー・ポジティブ」に基づく考え方が世界目標として合意されました。これにより、日本の環境政策は、「カーボンニュートラル(炭素中立)」、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」、「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の3つの重要な目標のもと、取組が進められていくことになり、地方公共団体や企業においてもこの3つを踏まえた2030年、2050年を見据えた戦略の検討が必要となってきます。
これらの3つの目標は、相互に影響し合うものが多く、1つの取組が他の2つの課題を同時に解決することにもつながります。2030年、2050年に向けた環境戦略や環境計画の策定にあたっては、これらの複合的な効果を考えたうえで取り組んでいくことが効果的です。
(令和5年2月 公共コンサルティング部 緒方)
本件に係るお問い合わせは下記よりお願い致します。
エコ・プラネットメールマガジン
(地方自治体環境担当者のためのメルマガ)
下記よりメルマガ登録を行っていただけます。
解除はメールマガジンよりいつでも行えます。