今、介護サービス事業者に求められるBCP(後編)
後編では、介護サービス事業者に策定が義務化された、BCP対策のポイントについてお伝えします。(前編はこちら)
BCP策定時のポイント
BCPを策定するに当たっては、少なくとも、下記①~③の内容について各組織内で検討する必要があります。
①防災計画とBCPは異なる。BCPで重要なのは“事業を継続する”こと
防災計画では、職員の生命と組織の財産の保護を目的としていますが、BCPでは、いかに事業を継続するかということを目的としています。もちろん、介護サービスを実施するためには職員の方の協力無くして事業継続は不可能ですので、防災の観点も重要ですが、様々な脅威により介護サービスを停止させないためには、事業継続の観点が必須となります。
②優先して復旧する重要業務を選定する
BCPを策定するうえで重要なプロセスの1つが、脅威が発生した場合に優先して復旧する業務について、「平常時」のうちに選定することです。医療の世界では「トリアージ」という言葉があります。
これは、医療資源(医療スタッフや医薬品等)が制約される中で、一人でも多くの傷病者に対して最善の治療を行うため、傷病者の緊急度に応じて、搬送や治療の優先順位を決めることをいいます。
まさに、重要業務の選定は、介護サービス事業者にとっての「トリアージ」を「平常時」に実施することであり、利用者の生命や健康を維持する観点から、入所施設は継続し、デイサービスはいったん休止する等、優先的に復旧すべき業務が何なのかということを職員全員が把握していることが重要です。
また、選定された重要業務について、脅威発生時には限られた職員で、その優先順位に応じて対応、復旧する必要があるため、職員の配置方法や他の施設への応援要請方法等を定めておく必要があります。
③事業所の立地環境を踏まえたリスクアセスメントをする
リスクアセスメントとは、各介護サービス事業所において、どのような脅威が取り巻いているか特定し、その脅威の大きさを計り、それを基に、対応の必要性や優先性を評価するものです。
リスクアセスメントは立地環境を踏まえて行うことが重要です。例えば、沿岸部においては地震に伴う津波、山間部においては土砂災害といったように、組織が立地する知識によってリスクは異なります。
立地環境における脅威の存在を知るには、各介護サービス事業所が立地する市町村から地域防災計画やハザードマップを入手することで、当該地域において想定されている脅威やその被害の程度を把握することができます。
BCP策定後も、定期的な見直しや訓練(BCM)が必須
BCP策定後、見直し等がなされなければ、いざという時にBCPが使えないということになってしまいます。そうならないようにするための重要な取り組みが「事業継続マネジメント(BCM)」と言われるもので、脅威の発生に備えてBCPをあらかじめ策定し、その有効性を維持向上させていくために、BCPが発動していない平常時から組織として取り組む活動をいいます。
令和3年度介護報酬改定の内容で求められている「研修の実施」、「訓練(シミュレーション)の実施」は、このBCMの取り組みに当たります。
実際の事例として、介護施設では、一堂に会して職員が集まり検討する機会が少ないため、カンファレンス(事例検討会)の際に、災害図上訓練を実施したり、定期的に事業継続に係る会議を開催し、その際に発電機の作業訓練、備蓄場所の確認及び棚卸し、屋外テントの設営訓練等の実施訓練も行うことで、日頃から、職員の防災、事業継続の意識啓発を行っている介護サービス事業者もあります。
こういった取り組みに多くの職員が参加することで、組織内でのBCPやBCMの認識が高まります。
介護サービス事業者が、脅威発生時でも利用者に必要なサービスを安定的・継続的に提供するためには、BCPは必要不可欠ですので、BCPの策定とBCPの構築に取り組んでいきましょう。