BCPとDRの違いとは?早期復旧につながる3つの指標を解説
突然の災害やシステム障害…あなたの会社は大丈夫ですか?
「大手じゃないし、BCPなんて関係ない」「大規模な災害が起こったら、そのとき考えればいい」と思っていませんか?
しかし、実際に大規模地震や台風、サイバー攻撃によるシステム障害などが発生した際、事前に準備していた企業とそうでない企業とでは、復旧スピードや被害規模に大きな差が生まれます。
特に中小企業は、一度のダウンタイム(システムやサービスの停止時間)が致命的な影響を及ぼしかねません。本記事では、事業継続に不可欠な BCP(事業継続計画) と DR(災害復旧計画) の違い、そして策定時に押さえるべきポイントについて解説します。
BCP・DRとは?
企業がビジネスを継続する上で、自然災害やサイバー攻撃など様々なリスクが存在します。一度大きな被害を受けると、事業の継続が困難になることも少なくありません。そのため、BCPとDRを理解し、適切に準備することが重要です。
BCPとは
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、大規模災害やシステム障害などの非常事態が発生した際に、企業の損害を最小限に抑え、事業を継続または早期に復旧するための具体的な計画です。
2011年の東日本大震災では、多くの企業が事業停止を余儀なくされましたが、BCPを策定していた企業は以下のような対策により、早期の事業復旧を実現しました。
- 事前に避難計画や代替拠点を用意
- 重要業務から優先的に復旧
- ITシステムのバックアップによるデータ損失の最小化
BCPの策定には事業継続以外にも大きなメリットがあります。「緊急事態への対策を万全に整えている企業」として取引先や金融機関などのステークホルダーからの信頼性が向上。実際に、BCPの策定・運用が取引先の選定条件に含まれるケースも増えており、企業の信用力向上につながる重要な経営戦略の一つとなっています。
関連記事:BCPとは|策定する目的や作成方法など基礎知識を詳しく解説
DRとは
DR(Disaster Recovery:災害復旧計画)とは、災害や障害発生時にシステムやデータを復旧させるための具体的な手段と計画を指します。近年、企業活動のデジタル化が進み、システムの停止やデータの損失は即座に業務停止や売上損失につながるため、DRの策定は企業の存続に関わる重要な課題です。
DRが効果を発揮する代表的な緊急事態として、ランサムウェア攻撃によるシステムの乗っ取りやデータセンターの火災による設備の消失、クラウドサービスの突然のダウンといったケースが挙げられます。
このような状況でも、適切なDRを策定・運用していれば、以下のような対応が可能です。
- バックアップデータを活用した迅速なシステム復旧
- 代替データセンターへの切り替えによる業務継続
- クラウドシステムを活用したリモート環境での業務再開
DRを策定しないまま緊急事態が発生すると、システムやデータの復旧に時間がかかり、長期の業務停止や取引先との信頼関係の損失、さらには企業の存続危機につながる可能性も。事前にDRを策定し、定期的な訓練や見直しを行うことで、緊急事態が発生した際の事業への影響を最小限に抑えることができます。
BCPとDRの違いは目的と対象範囲
BCPとDRは、企業の事業継続を確保するための重要な計画ですが、その目的と対象範囲は大きく異なります。この2つの計画の違いを目的と対象範囲の観点から詳しく解説します。
目的
BCPの目的は、災害や重大な事故が発生した際に、中核事業を維持・早期復旧させることです。企業が存続するためには、まず従業員の安全を確保し、雇用を維持することが不可欠です。また、重要な事業を継続または早期に復旧させることで、顧客や取引先との信頼関係を守り、企業としての社会的責任を果たすことができます。
一方、DRの目的は、災害時におけるITシステムの機能維持とデータ保護です。現代のビジネスにおいて、システムトラブルやデータの損失は即座に業務停止につながります。そのため、重要なシステムの稼働を維持し、データ損失を最小限に抑え、システムのダウンタイムを可能な限り短縮することが求められます。同時に、緊急時であってもセキュリティレベルを確保し、情報資産を守ることも重要な目的です。
対象範囲
BCPは企業組織全体を対象とした包括的な計画です。まず、企業活動において優先すべき重要業務を特定し、それらの継続方法を定めます。人員に関しては、安全確保と適切な配置計画を立て、設備や施設については代替手段を確保します。さらに、サプライチェーンの維持や財務・法務面での対応、社内外とのコミュニケーション体制など、事業継続に関わるあらゆる要素を計画に含みます。
DRは情報システムの復旧に特化した技術的な計画として位置づけられ、以下の要素に限定されます。
- 重要データのバックアップと保管体制
- システム復旧の手順と優先順位
- 代替システムへの切り替え方法
- ネットワークインフラの復旧計画
- セキュリティ対策の維持
このように、DRはBCPの中でも特にITインフラの復旧に焦点を当てた計画であり、システムやデータの保護と復旧に関する具体的な手順を定めています。
BCP・DR策定時に考慮すべき3つの指標
事前に明確な復旧目標を定めることで、「システムはいつまでに復旧させるべきか」「データをどこまで戻せばよいのか」「どの程度まで機能を回復させるべきか」といった判断基準が明確になります。これらの判断基準を数値化したものとして、以下の3つの指標があります。
- 目標復旧時間(RTO)
- 目標復旧時点(RPO)
- 標復旧レベル(RLO)
目標復旧時間(RTO):事業再開までの時間目標
目標復旧時間(RTO)は、災害やシステム障害が発生した際に「いつまでにシステムや事業を復旧させるか」を示す目標時間です。この指標は、事業の性質や取引先との契約内容を考慮して適切に設定する必要があります。
例えば、ECサイトでは売上に直結するため数時間以内の復旧が必須となりますが、社内のメールサーバーは最悪1週間程度の復旧でも許容されるなど事業の重要度によってRTOは大きく異なります。
RTOを事前に設定することで、必要な復旧時間に基づいてバックアップシステムや代替拠点、人的リソースなどを適切に配分し、効率的な復旧体制を構築できるでしょう。
目標復旧時点(RPO):データ損失の許容範囲
目標復旧時点(RPO)とは、システムからデータが失われた場合に「どの時点までデータを復元させるか」を示す目標値です。RPOはバックアップの方法や頻度を決定する重要な指標となります。
RPOが短ければ短いほどバックアップの頻度を高める必要があり、それに応じてコストも増加します。
- RPOゼロ(リアルタイム復旧):データ損失をほぼゼロに抑えられるが、システム構築・運用コストは最も高くなる
- RPO1時間:1時間ごとのバックアップが必要
- RPO24時間:1日1回のバックアップで対応可能
業種や業務によってもRPOの設定は大きく異なります。金融機関の取引データなどデータの損失が大きな影響を及ぼす場合はRPOをほぼゼロに設定する必要があります。一方、一般企業の文書ファイルなど1日分程度のデータ損失が許容される場合は、RPOを24時間に設定することで、バックアップのコストを抑えられるでしょう。
目標復旧レベル(RLO):どの程度復旧させるか
目標復旧レベル(RLO)とは、災害やシステム障害からの復旧時に「どの程度まで機能を回復させるか」を示す目標値です。一般的に、事業やシステムの復旧を早めるためには、災害発生前の100%の機能回復を目指すよりも、最低限のサービスが利用できる50%~70%程度の復旧レベルを目標とすることが推奨されています。
このアプローチには2つの利点があります。まず、完全復旧を目指すよりも早期に事業を再開できること。次に、限られたリソースを効率的に活用できることです。例えば、ECサイトであれば商品の注文機能と在庫管理機能を優先的に復旧させ、ブログやお知らせ機能などは後回しにするといった判断が可能になります。
事業継続の観点からは、完全な復旧を待つよりもコア機能を優先的に回復させることで、サービスの早期再開や収益機会を確保できるのです。
まとめ
BCPとDRは、企業の事業継続を支える重要な計画ですが、その役割は大きく異なります。BCPは企業全体の事業継続を目的とし、人員配置から設備、サプライチェーンまでを包括的にカバーします。一方、DRはITシステムとデータの復旧に特化した計画です。
これらの計画を効果的に運用するためには、RTO(目標復旧時間)、RPO(目標復旧時点)、RLO(目標復旧レベル)の3つの指標を適切に設定することが重要です。これにより、限られたリソースを効率的に活用し、迅速かつ低コストでの事業復旧が可能となります。
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